何もない一日じゃないはず

頭をひねれば、なにかは出てくる

おふとん引力の法則

かの物理学者アイザック・ニュートン万有引力の法則を発見したという。すべて引き寄せますよーみたいな普通に考えれば当たり前みたいなことをかっこよく定義し、その昔から見れば(もちろん今からも)素晴らしすぎる発見をしたのである。だが、先日も述べたように、当たり前のことをただ当たり前としてみなしているだけでは何も発見できないし、前に進むこともできない。疑問を抱くからこそ我が人類はここまで生きてこれたと言えるだろう。だからニュートンさんはスバラシイ!

 

さて、自堕落な生活を続けているからこそ、筆者は驚くべき発見をしてしまった。そもそも人生において望んでいるものを得ることは大抵難しいとされる。望んだものを得るためには相当な苦労を要する。しかし不思議なもので望まなければなんともアッサリと手に入ってしまうのもまた人生。男女間での浮気というものもこれに当てはまり、もう異性はイラン!とふんぞり返ったとたんにホイホイと自身を慕うという魅力的な異性が現れるのだ。昔はあれほど異性交遊を望んだのにもかかわらずその時にはそれが全く現れない。人生とはそういうものであるのだ。

同じように筆者は何かを発見しようと虎視眈々としていたわけではない。毎日くだらないことを考え、惰眠を貪ることを正当化し、睡眠中の夢をコントロールしようとあくせくしていた。寝ても寝ても止まることを知らない我が睡眠欲を我が子のように愛し甘やかしてきた結果、幸いにも外出する機会も減り、無駄な出費を避けることができた。もうそんな歳ではないが、背も伸びたように感じ、ますます想像上の自身のルックスに磨きがかかったと慢心し、「寝るばかりの生活もなかなかのものだ」と自己正当化してふりだしに戻っていた。まったく良いことばかりである。そんな中見つけてしまったのが「おふとん引力の法則」である。まさに幸せに拍車をかけるようである。

気づけば必要なものはおふとんの周りに集まっていた。暇つぶしのための本、テレビのリモコン、イヤホン、スマホ、PC、マグカップ、お菓子、ティッシュ、そして我が肉体。気づけばおふとんの周りに全てが集まっていたのだ。ここで注意しておきたいのは、筆者はおふとんの周りに全てを置いて快適な生活をしようといった「コタツ的発想」はしていないということだ。冬になると現れるという人々の生活を台無しにし、運動不足を招くというあのコタツ殿下にまつわるエピソードとは一線を画すということを読者の方々には肝に銘じて頂きたい。集めようと思わずして集まってくるというのがこの「おふとん引力の法則」の根幹であると言えよう。

筆者の居住空間は「おふとん引力の法則」を分かりやすく表していた。春になると多くの方が発症するという花粉症。その影響からなのかはわからないが、筆者にも鼻汁が通常の二割増しで出るという症状が発生している。その為鼻をかむ機会も二割増しとなり、学生時代体育の授業で鍛えたピッチングを披露することもしばしば見受けられる。昔はメジャーでコントロールを極めたシゲ・ノゴローのような投球を見せていたのだが、最近ではその跡形もない無残な姿を見せてしまっている筆者はこの姿を誰にも見られることが無くて良かったとホッとしている。ある時「おふとん引力の法則」に逆らい万有引力の法則と戦っている時、おふとんを中心にティッシュの塵屑が均等に散らばっているのに気づいてしまった。このままではいつか観た映画『ゼロ・グラビティ』のような結果を招いてしまいかねないと危惧した筆者は速やかにこの塵屑を消去した。ただ、あの塵屑が散らばっている様子はまさに圧巻で、これほど「おふとん引力の法則」の存在を明らかにする光景は無かったように思える。

もちろんこの「おふとん引力の法則」はどのおふとんに対しても起こる現象だ。自分の周りにそれが起こっていないという人もきっといつか必ず起こってしまうので覚悟していた方が良い。「おふとん引力の法則」の恐ろしいところはおふとんの周りに全てを集めてしまうばかりか、おふとん周辺にとてつもない重力がかかり、床が抜けてしまうという危険性があるということだ。万有引力の法則があることから我々がスカイツリーの真上から落ちてしまわないように気を付けるように、我々も「おふとん引力の法則」に足元をすくわれないように注意していかなければならない。

 

もう一つ言っておきたいのはもし周りに「おふとん引力の法則」に屈してしまった人がいた場合についてだ。「一日中寝てた」だとか「今日はおふとんから出られなかった」だとかいう人に対してよく人々は「だらしないやつだ」「前世はナマケモノかしらん」などという人がいるがそれは間違っている。だらしないのではなく、「おふとん引力の法則」のせいなのである。ナマケモノなのではなく「おふとん引力の法則」のせいなのである。せめて読者の方々にはおふとん引力にのまれてしまった人を見かけた際には、それを決して個々人のせいにはしないというのを心がけてほしい。ちなみに筆者は今おふとんの中にてこの文章を書いているが、これは決して怠けているのではなく、「おふとん引力の法則」の実験をしているに過ぎないということを強調しておきたい。